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制限速度でその道の難易度を知る ~欧州で義務化された自動速度制御装置(ISA)の日本への導入を考える

制限速度でその道の難易度を知る ~欧州で義務化された自動速度制御装置(ISA)の日本への導入を考える

山道の入り口で時速40キロ看板を見て気を引き締める

長年クルマの仕事に携わっているわりには運転に自信がない私にとって、制限速度表示は重要な指標です。制限速度は道路設計を考慮し、安全性を第一として設定されているはずなので、私の場合は、その道が求める運転技量を知る一つの目安としています。特に山あいの道に入る時には、その先に待ち構えるカーブへの心の準備にもなります。40km/h制限の表示が出てきたら、一旦路肩で後続車を先に行かせて、気持ちを楽にしてから走り始めることにしています。

欧州で義務化されたISAとは

そんな制限速度について、欧州ではドライバーにスピードの出し過ぎを知らせるシステムの導入が進んでいます。これは「インテリジェント・スピード・アシスト(ISA)」と呼ばれるもので、新型車については既に2022年7月から搭載が義務化され、今年の7月7日以降は義務化の対象が新車として販売される従来モデルにも広がりました。

仕組みとしては、カメラによる標識の読み取りや、カーナビの地図データから制限速度を認識し、それを超えて運転している場合には、ドライバーに警告音などで知らせるシステムです。同じISAでも最後のAが「アダプテイション」と呼ばれるシステムもあり、自動化が進んだ制御タイプでは、単にスピード超過を知らせるだけではなく、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)の設定速度が今走っている場所の制限速度に自動設定されて走行します。

(参照:001320703.pdf (mlit.go.jp) ISA基本設計書)

欧州では、従来からスピード違反の取締りが厳格に行われており、時速数kmのオーバーでも違反として扱われます。日本からの旅行者が欧州で運転した際に、「5km/hオーバーくらいなら問題ない」と思っていたらカメラでパシャッとされて、罰金の徴収が日本まで追いかけてきたという話をよく聞きます。厳しい取締りに加えISAの義務化により、欧州ではスピード違反をなくすことを目指しています。

日本への導入検討

実際、スピード超過は事故を起こした場合に、深刻な被害を引き起こします。警視庁の調べでは、交通事故のうち、スピード違反があった場合の死亡率は、違反がなかった場合に比べて9.2倍にも及びます。(参照:警視庁速度管理指針:shiryo.pdf (tokyo.lg.jp)

とは言え、日本では、制限速度通りに走っているクルマばかりではないというのが実態です。かく言う私も、運転に自信がないながらも、煽られるのも怖いので、制限速度以上とは思いつつ実勢に合わせて走っています。

そんな日本でも、実はISAの導入は議論されており、第6期ASV推進計画において、基本設計の考え方の整理を行いました。ただし、検討の過程において、実勢速度の状況や、制限速度の情報の検知能力なども考慮すると、日本においてISAをすべての道で適用するのはドライバーから受け入れられない可能性があり、結果として装置の使用率が下がってしまう恐れがあるとして、現実を踏まえた検討が必要とされているようです。

郊外の町では歩道と車道が分離されていないような生活道路がよくあり、そうした場所はゾーン30(制限速度30km/h)として設定されていることが多いのですが、地元ドライバーは慣れた様子で時速40kmくらいで走っているのが日常風景です。しかし、時速40kmの時に急ブレーキを踏んで停止できるのは22m先とも言われていますので、急な飛び出しには対応できません。最近では、「ゾーン30プラス」として、速度規制だけではなく、道路にバンプ(盛り上がり)を設けたり、敢えて道路幅を狭くするなど、ドライバーの注意を物理的に促す工夫も進んでいます。多くのドライバーは、事故に遭いたくないと思うのと同じくらいに、事故の加害者になりたくないと願っていますので、ゾーン30やゾーン30プラスのような場所からISAが導入されるのは良いのではないかと、運転不得手ドライバーは思います。

(参照:240527_zone30gaiyou.pdf (npa.go.jp) 警察庁HP)
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ドライバーにスピードの出し過ぎを知らせるシステム「ISA」。日本への導入は?

藤井郁乃
ASV広報担当

これまでさまざまな業種・企業で広報・IR・渉外を担当。フォードジャパン、トヨタ自動車、フォルクスワーゲングループジャパンという日米欧のマスブランドの自動車会社に勤務した経験を持つ。政府の自動運転プロジェクト「SIP-adus」の広報担当を経て、現在はASV推進計画の広報担当に。運転に自信のないドライバーの視点で発信。